文庫本の値段はどうやって決まる?出版社に電話取材してみた

こんにちは、新刊JP編集部ヤマダです。

前の更新からだいぶ日が空いてしまいましたね。

前回は新書について調べたので、今回は文庫について。

この間、チュツオーラというアフリカの作家の本を探していたときに思ったこと。

僕は小説を買う時、読んだことのない作家の本はできるだけ文庫を買うようにしています。

奮発して単行本を買って、読んでみたら面白くなかったとか、肌に合わなかったとかになると凹みますからね。


そういう意味で、文庫は今までに読んだことのない作家の本に触れる時に便利。


講談社学芸文庫とか岩波現代文庫みたいに、1000円以上する少し高級な文庫もありますが、大体は1000円以内で買えます。


個人的には初めて読む作家の本は500円以内で買いたいと思っているケチなので

1冊500円以下で買える“ワンコイン文庫”について書きます。

(ちなみにチュツオーラの文庫は中古で見つけました。800円くらいしましたが。。)





☆文庫の価格設定の方法

例えば新潮文庫ですが、380円、420円、460円、500円、540円と、価格設定は40円刻み。

とりあえず、新潮文庫で好きな作品を見てみると…

砂の女安部公房)     276ページ 500円
個人的な体験(大江健三郎) 258ページ 500円
輝ける闇(開高健)     294ページ  540円
女神(三島由紀夫)     346ページ  540円

100作品くらい調べましたが、新潮文庫はどうもページ数によって価格を決めている様子です。
500円で買える文庫というと大体300ページ弱まで。

海外作品は翻訳の手が入っているせいか、少し割高です。

実際にアマゾンなどで価格とページ数を調べてみるとわかりますが、新潮文庫はページ数が価格にかなり影響しているのがわかります。

まあ、でも実際に聞いてみないと推測の域を出ませんので、いくつかの出版社さんに電話をしてお話を聞いてみました。



■その一 新潮社 文庫編集部

「国内作品、海外作品それぞれに価格設定の目安となるページ数がある」

やはり新潮文庫はページ数によって価格が決まる、という面が強いそう。
ただ、もちろん例外はあって、他の出版社で単行本が出た作品を新潮社で文庫化する場合は別の料金設定をするようです。

■その二 祥伝社 単行本編集部(元文庫本編集者の方)

「文庫の価格の決定方法は主にページ数ですが例外もあります。」

「基本的にはページ数が価格設定の主な基準となります。通常の単行本であれば、初版は5000部〜7000部が一般的ですが、文庫本の場合は、1万部や1万5000部の初版は普通で、有名作家の場合は10万部刷ることもあります。そういった場合は、価格を安く設定する事もありますよ。これは例外ですが、主婦層をターゲットに、節約をテーマにした文庫本を出したときに本のテーマも節約なので、ワンコイン500円で買ってもらえるよう、ページ数関係なく500円に設定した例もあります。といっても安直に決めたわけではなく、他部署、業務部や販売部と相談し、適正な販売戦略を練ったうえで決定します。また、4色ページやオールカラーの文庫などは当然、ページ数に関係なく価格は高くなります。」(編集者談)

■その三 講談社 

「ページ数も考慮するが、その他の要因。」

基本的には企業秘密なのでお答えできない、とのことでしたが、
発行部数、紙の質、印刷所の値段、輸送運賃、社員数など全てを
考慮した採算分岐点をだす計算式があるそうです。
ページ数も考慮の対象にはなるがそれだけではない、とのこと。
さらに他社と比べて、決定します。

■その四 筑摩書房 編集部

「企業秘密なので一切お答えできません」

価格設定については一切が秘密ということでした。

■その五 早川書房 広告部

「ページ数と部数を基準にして決定しています」

ページ数と部数が主な判断材料とのこと。
しかし、翻訳モノは訳者印税があるので少し割高です。
それと挿絵が入っていたりすると挿絵の作者へもお金を払うので割高です。

☆文庫の価格設定の方法


・各社とも様々ですが、発行部数、ページ数は大きな判断基準となる
・当然といえば当然ですが、翻訳や挿絵などの手がかかっているものは割高
・本の内容によって、戦略的に価格を設定する場合もある

講談社の“秘密の計算式”が気になるところですね。




ところで、ページ数が価格設定の大きなポイントだとすると500円以内で買うには短編を探すことになります。

今回、各出版社の文庫を調べて価格を見ていて、500円はともかく420円くらい(ページ数でいうと150〜200ページくらい)の短編小説に、現役バリバリの作家の名前をあまり見かけなかったんですよね。

絲山秋子さんはあいかわらず短編で頑張っていましたが。


これが意味するところは一体何なのか?

優秀な短編・中編の作家が少なくなっているということなのか。

それとも実力のある作家、人気の作家は短編を書かなくなってしまうのか?

そいつは次回調べてみようかと思っている次第です。



ちなみに新潮文庫で上にあげた作品はどれも大好きなものです。

人に「オススメの小説は?」と聞かれたら答えるし、聞かれなくても勝手にペチャクチャしゃべってしまうくらい好きです。

特に大江健三郎氏。
冒頭のチュツオーラにしても『個人的な体験』(大江健三郎の中でチラッと触れられているので興味をもっただけです。
(作中での表記は「チュチュオーラ」となっています)


僕が大江氏の作品をどれだけ愛しているか、についてはいつか機会があれば書こうと思います。

ではでは。