新書は「コンセプト」で選べ!―出版社に電話突撃

こんにちは。


遅ればせながら、僕も新刊JPブログから独立して、個人でやっていくことになった。


このブログは「日常で疑問に思ったことを調べて、解決していく」


をテーマに2週間に1度更新していこうと思う次第です。


記念すべき第一回はこれ!












かつて図書館で働いていた頃は「新刊」との区別がついていなかった、「新書」


以前、新刊JPで特集した『だから新書を読みなさい』(奥野宣之/サンマーク出版)のページに、新書とは一体何なのかが書かれている。


それによると、新書の定義は本のサイズで決まり、173×105mm、およびそれに近い判型の本を新書と呼ぶそうだ。


それはつまり、本の内容は問われないということ。


調べたら100近くの出版社が新書を出していて、タイトルだけ見ても、


「精神」とか「人類」とか恐ろしく広い分野を扱っているものから


「スイスの鉄道」のような細かいものまで様々。。。


おそらく、出版社ごとに独自の編集方針やコンセプトがあるにちがいない。


今回はそのあたりのことを調べようと、あちらこちらの出版社に電話をかけて、新書編集部への取材を試みた。


■筑摩新書(1994年創刊) 『時事性と普遍性の両輪』
最初に連絡を取ったのは筑摩書房の「筑摩新書」。編集者の方曰く「時事性と普遍性の両輪」を常に意識しているそうだ。

ベストセラーとなったものには
『多読術』(松岡正剛 著)
『現代語訳学問のすすめ』(福沢諭吉 著/斎藤孝 訳)
『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』(城繁幸 著)
ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる』(梅田望夫 著)




多読術 (ちくまプリマー新書)

多読術 (ちくまプリマー新書)

『多読術』はキノキャストで内容を聴くことができるので、気になった方は是非試してみてほしい。

キノキャスト2009年7月12日号『多読術』



岩波新書(1938年創刊) 『教養性と時事性を重視。中身の濃いものを』
岩波新書は国内最古の新書。


特定分野について詳しい情報を得ることのできる、


いわゆる「教養新書」のイメージが強いが、


編集長氏によると「教養性」と「時事性」が半々になるように創刊時から変わらずに意識しているそうだ。


「今まで通り中身の濃いカッチリとしたものを作っていけば、それが自ずと他社との差別化になる」という、元祖ならではのコメントをいただくことができた。


ちなみに『岩波新書の歴史―付・総目録1938〜2006』によると、


1938年創刊時は『神秘な宇宙』(ジーンズ)など20タイトルが同時発売されたようだ。


よく売れたものは
『ルポ貧困大国アメリカ』(堤未果 著)
『読書力』(斎藤孝 著)
格差社会―何が問題なのか』(橘木俊詔 著)
『子どもの社会力』(門脇厚司 著)
『若者の法則』(香山リカ 著)
『日本人の英語』(マーク・ピーターセン 著)




日本人の英語 (岩波新書)

日本人の英語 (岩波新書)




新潮新書(2003年創刊) 『他社の二番煎じはしない』
意外にも新潮新書の歴史は浅く、2003年の創刊だ。


しかし「電車の往復時間で読める雑誌感覚の新書」というコンセプトが良かったのか歴代最


速で発行部数が1000万部を超えた。


「岩波・中公・講談社に追いつけ追い越せと思ってやってきた」と新書編集長氏が電話で言っていたが、現実になりつつある。


編集方針としては「他社の二番煎じはしない」。


ベストセラーとなったものは一般的によく知られているものが多く
『人間の覚悟』(五木寛之 著)
バカの壁』(養老孟司 著)
国家の品格』(藤原正彦 著)
人は見た目が9割』(竹内一郎 著)
キノキャストでも紹介している『いつまでもデブと思うなよ』(岡田斗司夫 著)などなど。

キノキャスト2008年4月27日号『いつまでもデブと思うなよ』



いつまでもデブと思うなよ (新潮新書)

いつまでもデブと思うなよ (新潮新書)




■文春新書(1998年創刊) 『コンセプトは特になし』
あらゆる種類の本を出している出版社だけに、ターゲットとしている層も特には定めていないようだ。


ベストセラーには
『断る力』(勝間和代 著)新刊ラジオで紹介)
『強欲資本主義ウォ−ル街の自爆』(神谷秀樹 著)
美しい国へ』(安倍普三 著)
『ロ−マ人への20の質問』(塩野七生 著)
『漢字と日本人』(高島俊男 著)




美しい国へ (文春新書)

美しい国へ (文春新書)




PHP新書(1996年創刊) 『ビジネスマンが読んで役に立つものを』
文春新書と対照的だったのがPHP新書


PHP研究所自体がビジネスマン向けの本を扱ってきたというだけあって、新書部門もその傾向が強い」(編集長氏談)


ベストセラーには
『女性の品格』(坂東真理子 著)
『頭がいい人、悪い人の話し方』(樋口裕一 著)
『すべては音楽から生まれる』(茂木健一郎 著)
『1分で大切なことを伝える技術』(斎藤孝 著)
養老孟司の“逆さメガネ”』など。(養老孟司 著)




女性の品格 (PHP新書)

女性の品格 (PHP新書)



PHP研究所PHP新書の他に今年創刊された「PHPサイエンスワールド新書」もあり、


こちらは科学の分野に特化した新書を刊行している。


こちらは過去に特集したが、執筆陣の豪華さに目を見張った。



ワニブックス【PLUS】新書(2009年創刊)『啓蒙的で堅苦しいイメージの新書にエンターテイメント性を持たせる』
岩波新書が「元祖」ならワニブックス【PLUS】新書は「最新」の新書だ。


何しろ先月の8日に創刊されたばかり。


ターゲットは比較的はっきりしていて「20代〜40代」(編集長氏)とのこと。


編集部に届いた新書創刊の案内には「プチ教養書」とある。


これは編集長氏曰く「啓蒙的だとか堅苦しいイメージのある新書にエンターテイメント性を持たせて世に出していく」。


あくまで教養新書だが、ただ学問的なのではなく、身近なところからテーマを拾ってくることもあり、


執筆陣に芸能人を起用するなど、親しみやすさが特徴だ。







やはり、というかなんというか、各社それぞれ編集方針も編集への熱意もかなり違う。




電話取材の結果をまとめるとこんな感じ。

★新書には、一般的で深い知識を得られる「教養新書」と、実生活に役立つ知識を得られる「実用新書」に大別される。

★各出版社ともに、「教養新書」重視か、「実用新書」重視か、両方に力を入れるか、それぞれスタンスが決まっている。

★創刊から日が浅い新書(新潮新書ワニブックス【PLUS】新書など)ほど、ターゲットやコンセプトが明確になっていることが多い。


また、最近の発売されている新書の傾向として「原点回帰的に教養新書が増えている」(PHP新書編集長)ことがあげられるようだ。




ここまで書いてきたが、新書に興味のある人はきっと旺盛な知識欲を持つ人に違いない。


新書を買う時は、知りたい分野のものを選ぶことはもちろん、


各出版社新書部門のコンセプトを意識するとハズレが少ないかもしれない。


すべての出版社を取材したわけではないが、この記事が新書を選ぶ際の一助となれば幸いだ。


ちなみに冒頭で紹介した『だから新書を読みなさい』にも新書の選び方について詳しく書かれているので参考にしてほしい。


今後ともよろしくお願いします。